名古屋地方裁判所 昭和27年(行)12号 判決
原告 久野かや 外一名
被告 愛知県農業委員会
一、主 文
原告等の請求を却下する。
訴訟費用は原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は「愛知県知多郡横須賀町農業委員会のなした原告等所有の別紙目録記載の農地にたいする買収計画異議却下決定に対し、原告等が昭和二十七年三月二十二日附で被告に対し申立てた訴願につき、昭和二十七年四月十日原告等のなした訴願取下は無効であることを確認する」との判決を求め、その請求の原因として、愛知県知多郡横須賀町農業委員会は原告等所有の別紙目録農地に対し自作農創設特別措置法の規定により昭和二十七年三月二日それぞれ買収計画を立て、原告等はこれに対し同月十二日同委員会へ異議申立をなしたところ、いずれもこれを却下されたので、同月二十二日被告に対し該却下決定に対する訴願申立をなした。ところで右訴願申立はその後同年四月十日原告等名義をもつて取下げられたが、右取下は無権代理人たる訴外久野与八郎のなした無効のものであるから、請求趣旨の如き判決を求めるため本訴に及ぶと述べた。
被告訴訟代理人は「原告等の請求を却下する。訴訟費用は原告等の負担とする」との判決を求め、先ず本案前の抗弁として、原告等の請求は即時確定の利益を欠くから不適法として却下せらるべきであると述べ、次に本案につき請求棄却の判決を求め、答弁として原告等主張の請求原因事実のうち、愛知県知多郡横須賀町農業委員会が別紙目録記載の農地につき買収計画を立てたこと、これに対する原告等の異議申立が却下されたこと及び原告等は被告に対し訴願をなし、その後右申立は原告等名義をもつて取下げられたことは何れもこれを認めるが、その余の事実は否認すると述べた。
三、理 由
まず被告の当事者能力の点について考えるのに、本訴が公法上の権利関係に関する訴訟としていわゆる行政事件訴訟に属することは原告の訴旨自体に徴し明らかである。すなわち訴願の取下は訴願庁と訴願人との間訴願法律関係を終了せしめる行為であり、その有効無効を判定する訴訟は(かかる訴訟が権利保護の利益があるか否かは別論として)訴願法律関係の存否に関する訴訟として行政事件訴訟と認むべきだからである。ところで公法上の権利関係に関する訴訟においては、公法的法律関係における権利能力者(すなわち国、公共団体等)が当事者能力を有し、その機関たるにすぎない行政庁は独立の人格ではないから、行政事件訴訟特例法第三条のように特に当事者能力を認める規定の存する場合を除き当事者たり得ないのが原則である。(行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第四十五条)しかして自作農創設特別措置法による農地の買収計画、異議の決定及び訴願の裁決等の行政処分は国の行政作用としてそれをめぐる法律関係の主体は国家であり、農業委員会は単にその機関たるに止まる。従つて本訴における如く行政庁の処分の取消変更又は無効確認を請求するのでない訴訟にあつては国が被告となるべきであり、愛知県農業委員会は当事者能力を欠くものとして被告たり得ないのである。よつて本訴は当事者能力なき者を被告とするものである故じ余の判断をまつ迄もなく、この点で不適法として却下せらるべきである。
なお右のような請求の権利保護の利益の点につき一言するに、訴願取下無効確認というもそれは畢竟訴願庁の裁決義務の確認にあり、しかも原告が訴願の裁決を求めようとするのは原処分(買収計画)の取消変更を求める意図あることは明かであるから、その終局的救済は裁判所による原処分の取消をもつてなされること勿論である。ところで行政事件訴訟特例法第二条は訴願前置主義を規定しているけれどもその但書をもつて訴願の裁決を経ない出訴の道を開いているのであるから、原告は訴願の裁決の遅延又は裁決のなされないときは、この訴願省略の途により原処分に対する救済を求めればよいのである。(同法第五条の出訴期間については徒過の正当事由の存否の問題となる)従つて本訴の如き請求は徒に迂遠の道を辿る訴として権利保護の利益を有しないものと解すべきであろう。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十三条行政事件訴訟特例法第一条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 山口正夫)
(目録省略)